Astell&Kern×disk union presents Talkin’ Loud & Sayin’ Music

1.細野晴臣「Close To You(遥かなる影)」
(『オール・カインズ・オブ・ピープル〜ラヴ・バート・バカラック〜プロデュースド・バイ・ジム・オルーク』収録)

勝井:
まず、ジム・オルークがプロデュースしたバート・バカラックのトリビュートアルバムから、何の説明もなくいきなり聴いてもらっても良いでしょうか?
小野島:
1曲目のカーペンターズで知られる「Close To You(遥かなる影)」です。ヴォーカルは細野晴臣さん。レコーディングはどういう感じで行われたんですか?
勝井:
ストリングスは、僕と当時僕のアシスタントをしてた成井幹子とふたりで弾いています。成井はヴィオラも弾けるので、何パートか録りました。
小野島:
これはバンド・レコーディングですか?
勝井:
いや、できているものの上に、ストリングスを被せています。
小野島:
ある程度トラックができあがってるところにダビングしたと。
勝井:
そうです。そのストリングスをジムさんに頼まれたんですけど、僕はそういうのが苦手だし、何回も失敗して時間もかかるから言って断ったんです。絶対僕じゃないほうが良いからって。そしたら、アシスタントの成井幹子が全部ひとりでやらなきゃいけないことになっちゃって。助けを求められたんで、わかったって言ってふたりでやりました。録音はヘロヘロだったと思いますよ。いっぺんに弾けないので、途中で止めて弾き直したりとか。
小野島:
ダビングは得意じゃないんですか?
勝井:
これパッと弾いてくださいっていうのが、得意じゃないんです。譜面が得意じゃないっていうのは、何の自慢にもなんないんですけど。ジムさんがちゃんと録音してミックスして、バリバリに編集してくれたんだと思います。すごく流暢なストリングスに聴こえたでしょ?
小野島:
はい(笑)
勝井:
さすが! としか言いようがない。ジム・オルーク・マジック。本当にこの人は、すごい人ですね。
小野島:
細野さんも現場にいたんですか?
勝井:
いらっしゃいませんでした。分け録りでした。
小野島:
勝井さんが録音するとき、すでに細野さんのヴォーカルはすでに入ってたんですか?
勝井:
入ってましたね。
小野島:
それも珍しいですね。ヴォーカルのあとに入れたわけですか。
勝井:
ストリングスが最後じゃないですかね。ジムさんが仮でガイドのシンセを入れてくれてましたけど、僕は全然弾けなくて、何回も失敗した。
小野島:
確かに勝井さんのスタイルとして、こういう流麗なストリングスってかんじは、あんまりないですよね。
勝井:
うん、やったことないです。もらった譜面を見て、“これがアレンジってものなのか!”って思いましたもん。みごと。
小野島:
勝井さんがゲストで、いろんな人のレコーディングに参加することってありますけど、だいたいは好きにやってくださいっていう感じですか?
勝井:
そうやらせてもらってる方が多いですね。
小野島:
じゃあ、最初から譜面どおりに弾いてくださいってことは、あんまりない?
勝井:
なくはないです。必要が生じれば。でも、いわゆるストリングスって、それを専門にやってるプロの人たちが世の中にはたくさんいて、そういう人たちは上手なんですよ、仕事も早いし。もちろんレコーディングで、アコースティック・ヴァイオリンで譜面に書いてあるものを、ちょっと弾いてくださいって言わることはありますけど。いわゆる、こういうストリングっぽいのを弾いたのは、たぶんもう、これで最後になるんじゃないでしょうか。
小野島:
最後(笑)
勝井:
もう受けないと思います。得意じゃないですから。
小野島:
でも聴いていただいたとおり、録音も本当に良くて。
勝井:
ほんと素晴らしい。
小野島:
柔らかくて、奥行があって、広がりがあって。
勝井:
ジムさん、ホントおもしろいんですよ。ついこの間一緒にご飯食べた時も、いろんな音楽の話をずーっとしてたんだけど、あの人って“この音楽はこうだから好きだ”、“この音楽はこうだから好きじゃない”っていうのが、ものすごくハッキリしてる。“あのミュージシャンはこういう理由でクソだ”っていうのを、ものすごくハッキリした理由で言うから、よくそんな言葉思いつくなって。日本語で、すっごいスピードで話すんですよ。
小野島:
評論家の仕事っていうのは、ただ単に好きだとか気持ちが良いとか嫌いだとかじゃなくて、なぜそうなのかということを突き詰めて考えていく仕事だから、話を聞く限りでは、ジム・オルークさんはまさに評論家向きですよ。
勝井:
評論で何かを広めるっていうよりは、自分にとっての音楽。この音楽、このミュージシャンはどういう愛情があるのか、みたいなことですかね。まあ、でもホントにおもしろいですよ。もちろんここじゃ言えないですけどね。
小野島:
誰ですか?(笑)
勝井:
絶対言わない(笑)。褒める時の言葉や表現の仕方が、最高におもしろいんですよね。ジャズ・ピアニストの佐藤允彦さんが本当に素晴らしいって話してましたね、おもしろい表現で。まあ、こういう機会もあんまりないと思ったんで聴いていただきました。これが僕の最後のストリングスでしょうから。

2.勝井祐二 山本精一 カブサッキ フラノフ バスケス フォンタナ「Take 1」
(『IZUMI Buenos Aires Session Vol.#2』収録)

小野島:
最後、最後って言わないでください(笑)。さて、次に聴いていただくのは、勝井さんと山本精一さんがブエノスアイレスまで行って録ったアルバムですね。
勝井:
フェルナンド・カブサッキ、アレハンドロ・フラノフ、モノ・フォンタナ、サンティアゴ・バスケスと一緒に作りました。いや〜、このブエノスアイレスの何日間は最高に楽しかったですね。ミュージシャンたちとスタジオで、ずーっと一緒に遊ぶようなレコーディングで。ひとつの部屋にみんな一緒にいて、輪になって演奏するんです。ドラムのバスケスがいて、僕と山本さんにはアンプがあって、自分の音はアンプから聴こえてる状態で。だからヘッドフォンしてない。“じゃあ、やろっか”というのもなくて、なんとなく演奏が始まる。途中で、バタンッてドアの音が入ってるんですけど、誰かスタジオから出ていった音なんですよ。
小野島:
(笑)。そういう自然な状態のセッションを、そのまま録ったと。
勝井:
まる3日間ぐらい、ずーっとやってましたね。本当に最高に楽しい経験でしたね。
小野島:
曲があってそれをなぞってやろうというんではなくて、自然に。
勝井:
全部即興演奏ですから。サンティアゴがパターンを始めて、すぐ誰かがパッと付いていったところのシーンから、ビヨ〜んて、だんだんチルアウトになっていって、途中で誰か出てったり。この曲でピアノを弾いてたアレハンドロが、そういう奴なんですよね。すご〜く良い感じで演奏していて、ひとつの物語が終わろうとしてる時に携帯の着信音が鳴ったこともある。で、みんな、“あ〜”と思うじゃないですか。すっごく良いの録れてる感じのエンディングだったから。誰かと思って見回したら、アレハンドロで。普通に電話出ましたからね、「あ、もしもし」とか言って(笑)。そのまま話しながらスタジオをバターンて出て行きました。残された僕たちの、すごい変な間。ハッキリ覚えてますよ。ということもありながら、横にリビングみたいなスペースでアルゼンチンのエンパナーダっていう揚げ餃子みたいな食べ物をつまみつつ、みんなで演奏してました。
小野島:
ポストプロダクションはどういう形で?
勝井:
全セッションを僕が聴いて、使うところを決めて、それを日本でミックスしました。
小野島:
その取捨選択の判断っていうのは?
勝井:
セッションした時の印象ですね。“あれおもしろかったな〜”とか、そういうのですね。
小野島:
ある種無造作な制作形態だけど、こんなに良い音で録れてるっていうのはすごい。
勝井:
アルゼンチンのミュージシャンの音が良いんですよね。耳も良いし、楽器の音も良い。パーカッションの音だったり、モノ・フォンタナのシンセの音だったり。元々の音が良いんです。
小野島:
それはチューニングとかメンテナンスとか?
勝井:
いや、演奏が良い。良い演奏って、だいたい音が良いんですよね。名演奏家だけど音が汚い人って、ひとりもいないですよね。それと同じです。音の反応がすっごく速くて、今聴いてもちょっとゾクッとします。久々にこのぐらいの音量で、こういう分離の良い状態で聴いた。全員の顔が思い浮かびました。
小野島:
それだけ臨場感のある音で再現できていた。
勝井:
今すごい臨場感ありましたね。久々に聴きました。あのスタジオで録ったものを、コントロールルームで聴いてるみたいなかんじでしたね。でも、何が良い音かって、僕もよくわかんないですよね。分離が良ければ良いのか、とか。やっぱり録音物を作ってる時は、音の勢いや音楽の持ってる生命力みたいなものを、よりうまく表現して、伝わるかどうかを意識する。あとすごく気にするのは、音のスピード感。今聴いた曲はスピード感ありましたよね? 特に前半のほう。
小野島:
それは分離が良くて、ノイズが少なくて、S/Nが良くてっていう要素が?
勝井:
ノイズはないに越したことはないでしょうね。音の突進力みたいなものが表現できているかどうかっていうことを、ミックスダウンするときはいつも考えてます。
小野島:
突進力とかスピード感っていうと、わりとテンポが速い曲とかハードな曲を思い浮かべがちですけど、そうじゃない静かな曲にも必要ということでしょうか?
勝井:
そうです。静かな曲でも、スピード感のある演奏ってあるじゃないですか、テンポが遅くても。そういうふうになれば良いなと思いますね。録音とミックスが何かがきっと間違ってるなっていうものって、音楽がすごく遅く聴こえるんですよね。それはもしかしたら、演奏がもたもたしてたかもしれないし、演奏はもっとスピード感があったのに、それが表現できなかったのかもしれないし、他かもしれない。
小野島:
音楽家の伝えようとしているものが、こっちに届いてくるかどうかってことですか?
勝井:
そういうものを作りたいと思ってるんですけどね。歌、歌詞、言葉のメッセージで全部を伝えることができるんだったら、それは良いと思うんですけど、僕らのように歌のない音楽をやってる人は、全部を音に込めなくちゃいけない。あと、録音物のこと以外でいつも思うことがあって、一緒に演奏していて“この人素晴らしいな”と思う演奏家の音は、絶対に良いですね。名演奏家で音が悪い人ってのはいないです。音は良い、絶対良い。

3.ROVO「R.o.N」(『Ⅺ』収録)

小野島:
それでは最後に聴いていただくのはROVOです。
勝井:
去年、結成20周年ということで『Ⅺ』というアルバムをリリースしました。ゲストプレイヤーに、中村弘二くんとタブラ奏者のユザーンを迎えて、8人編成で作った曲で、これがミックスに一番苦労しました。これはネタばらしなんですけど、ループ的なものを担当してる人が何人かいて、ギターとか、同じコードをずーっと繰り返している。もちろん変化していきますけど。それとは別に、主に僕ですけど、曲の最初から最後にかけて、ずーっと温度感をひたすら上げていく役もいました。ドラムもそれに近い。タブラは途中から参加。ただ、ループを担当している人たちの温度感と、盛り上げるぞ〜っていう温度感の人たちのスピード感を、一緒に気持ちを合わせて演奏したんですけど、そう聴かせるのが難しかった。
小野島:
なるほど。
勝井:
最初の仮ミックスの段階では、ループの存在が強いと温度感が変わらない音楽に聴こえるし、かといって温度を上げれば良いかっていうと、変わらないものに対して気持ちばっかりいってるように聴こえちゃう。8人でいっぺんに演奏している感じをいかに出すかが難しかった。でも、けっこう良いかんじになったと思いますよ。
小野島:
演奏の現場では、息がピッタリ合った状態でやってるんだけど、音源として聴かせるときに、それがちゃんと再現できてるかどうかというのが問題だと。
勝井:
普通は同じように温度感を上げていく、同じように変わらないっていうものがほとんどだと思うんですよ。そういうのって、聴かせやすい。一筆書きの方向がみんな一緒なので。ただ、温度感の違うものが同時に存在していながら、一緒に突き進んでいくっていう、曲の構造としてちょっと変わってるっていうのもあるんですけど。それをミックスするっていうのが、一番大変でしたね。あとは、いつもは6人のところにもう2人入れてるんで、音数を多いっていうのもありましたね。
小野島:
益子さんは、ROVOに関しては全部エンジニアをやってらっしゃるんですけど、演奏にも参加されてるから、当然、卓についてるわけじゃないんですよね?
勝井:
卓についてますよ。
小野島:
そうなんですか!?
勝井:
レコーディング・スタジオでみんないっぺんに演奏してる中、僕や山本さんのアンプを同じ部屋で鳴らしちゃうと、ドラムスのマイクのチャンネルにギターアンプの音が干渉して、音作りがあとで難しくなるのでギターアンプだけ違う部屋に置いてあるんです。さっきのアルゼンチン・セッションとは別で、今度はヘッドフォンをして、演奏しています。全員が一緒にいる部屋に、益子くんだけいない。彼はガラスの向こう側のコントロールルームにいて、デカい卓の横にシンセ置いてるんですよ。そろそろやりましょうかって言ったら、プレイヤーになる。
小野島:
益子さんは卓を見ながら、自分でシンセを弾いてると。
勝井:
演奏の時は卓見てないんじゃないんですかね、さすがに。ちゃんと音を整えてから録音するので。
小野島:
マイクの立て方なんかも、益子さんが指示されるんですか?
勝井:
そうですよ。彼の大きな特徴は本当によく音を聴いてて、楽器が鳴ってる音を聴いて、どこにどうマイクを立てれば良いかってことを自分で判断してるところ。彼の話ですごく印象的だったのは、彼は自分のスタジオを持っていて、いろんなレコーディングの仕事をしてるんですけど、ある時プロのストリングスの人たちがやって来て、録音したいと。益子くんはいつものように「じゃあ弾いてください」と言った。それで音の状態やどこでどう聴こえるのかっていうことを自分で聴いて確かめて、マイクの位置を自分で考えて決めるんですよ。一方、場数の多いストリングスの人たちは、その人たちなりのマイクの位置があったみたいで。通常のマイク位置と全然違ったらしく、すごい嫌な顔されたって言ってました。
小野島:
セオリーをあえて無視してるとかじゃなくて、自分の耳で確かめて一番良い音がたまたまそこだっていう。
勝井:
そうそう。すべて1から10までやってきた人なので。彼は学校行ったわけじゃないから、すべて独学。ライヴの現場に行ってよく思うのは、エレクトリック・ヴァイオリンなんかはアンプで鳴ってて、だいたいどういう音がどういう場所で鳴ってるかっていうのは定石があるので苦労しないんですけど、そうじゃないアコースティックな楽器、パーカッションとかサックスとかアコースティック・ヴァイオリンとかがバンドの編成に入ってる時って、マイキングに苦労する場合があるんですよ。マイクを立てて、PAが卓にいて、ああだこうだやるんですけど、楽器のどういう音がどこで鳴ってるのかって、楽器のところまで聴きに来る人は少ないですね。あれは、学校で教えたほうが良いんじゃないのかな。
小野島:
このトークショーの第一回目のゲストがまりんさん(砂原良徳)で、同じように良い録音作品を挙げてもらったんですけど、彼もROVOの曲を挙げてきました。やっぱり、益子さんのエンジニアはバンド物としては素晴らしいと。益子さんがエンジニアで、まりんがマスタリングという作品はけっこう多い。まりんは音に対する感覚がものすごく鋭敏な人で、そんな彼が認める音の良いレコードということ。バンド物としてこれだけ生々しく録れてるのはすごいってことで、ROVOを挙げてましたね。
勝井:
マスタリングまで全部できる砂原くんなんですけど、自分の作品はミックスまでやって、マスタリングは益子くんに任せたって言ってましたね。
小野島:
まりんとしては、何もかも自分でやっちゃうと客観性がゼロになっちゃうから、それは良くないと。客観的な視点が必要だから、最後に益子さんにお願いしようっていうことは言ってました。益子さんはミックスに時間がかかったっておっしゃってましたけど、ポストプロダクションにおいても、益子さんの技はかなり発揮されているんですか?
勝井:
例えばROVOにはないですけど、編集で作っていく作業、ここ切り貼りしよ、みたいな作業も一緒にすることが多いので、ミックスの時は僕もずっと立ち会っています。ふたりでああだこうだ言って、いつも意見が合わないから時間がかかんですけど、基本的にはオペレートは益子くんですね。細かいところを話し合って、1日作業して、CD焼いて、家に持って帰って聴いて、また1週間後に行って、益子くんはもう1段階作業を進めてて、「あ、いいね」みたいなのを、時間をかけて詰めていきます。
小野島:
意見が合わないって、どういうところですか?
勝井:
手短に話せるかな〜。意見が合わないんです。でもそれは、俺はこうしたい、益子くんがこうしたいっていうエゴをぶつけ合ってるんじゃなくて、良い音楽にしたいという意見なんです。ここがもっと良くなるんじゃないかとか、なんかいまいちだなとか感じるところがあって、じゃあ次の展開の時に入口をハッキリしようと。そこで例えば、僕が音を「足そう」って言うと、益子くんは、そこは音を「抜く」でしょって。でも、感じてる場所は同じだっていうことがわかると、音を足す引く以前に問題があるんだって気づいて、じゃあどうしようかって、時間をかけて話し合って、見つけていくんです。
小野島:
どこに問題がありそうだっていう意見は一致するけど、それをどうやって解決するかっていうところで、意見が食い違って、それをまた調整すると。
勝井:
問題があるところが同じだってわければ早いですけどね。でも明確にわからない場合もありますから。
小野島:
益子さんは、エンジニアとしてだけ加わる場合もあるけど、ROVOのときはプレイヤーでバンドのメンバーだから、ROVOに対してこうあるべきだとか、こうしたいっていう気持ちも当然ある中で、勝井さんとの意見を戦わせながらやっていると。
勝井:
そういうことです。
小野島:
それがおもしろいんでしょうね、きっと。
勝井:
おもしろいけど、めんどくさいですよ。普通にエンジニア専門の方だったら「ちょっとここ、こうした状態で聴いてみたいんですけど」って言ったら、「はい、わかりました」「いいですね、こうしてください」ってなるじゃないですか。益子くんの場合は、「ここ、こうして聴いてみたいんだけど」って言ったら、「いや、違うと思いますね」って。やってくれないんですよ、自分が違うと思うから。なんでそうしたいのかっていうのを言葉にして、説得しなきゃいけない。
小野島:
さっきで言うジム・オルーク的な言語の明晰さが求められるんですね。
勝井:
こんなに言葉にして話してるバンドって、ないんじゃないんですかね。曲作ってる時もそうですよ。
小野島:
歌がない音楽だから、余計に言葉を必要としてるとか、そういうことでもあるんですかね?
勝井:
みんなで作ってるからでしょうね。
小野島:
絶対的なリーダーがいて、そいつの言うとおりにやってるわけじゃないと。
勝井:
そうそう! 作曲は僕か山本さんなんで、一応作曲者はリードしていくんですよ。こうしたい、こうしたらどうかな、こうしてくれ。でもだんだん詰めていくと、「いやそうじゃないほうが良い」とか、みんな平気で言いますからね。「それダサい」とか。
小野島:
細かいところもみんなで意見を出し合ってるわけですね。
勝井:
そうです。で、繰り返しは、1回目は4回だけど、2回目は3回とか。なぜかわからないけど、その時にそう決まるんですよ。10年、15年前に作ってた曲がそうなってて、今あの曲やろうって言うと、なんであんなことしたんだろうねって。誰も理由を覚えてない。「散々言い合ったと思うよ」「でももう1回やってみようか」。2回目も4回でやってみたけど、やっぱ3回かな、みたいな。それをひたすら繰り返す。
小野島:
おもしろいですね(笑)。我々が日比谷の野音で酔っぱらってへろへろになりながら踊って聴いてる一方で、ミュージシャン当人はすごくこだわってる。
勝井:
みんな言いますけど、ものすごく俯瞰してるっていうか。冷静な状況じゃないと演奏できないんです。僕なんか、わざとやってるわけじゃないですけど、演奏しながら体が自然に動くので、ブンブン頭振りながら、気が狂ったようにヴァイオリンを弾きまくってますが、ちゃんと数をかぞえてますからね。64小節とか。64小節数えるんですよ、同じフレーズを! 変化させて弾きながら。64小節で、全員でピタッとブレイクするために、合図を出したりとか。
小野島:
聴いてる人が気持ち良くなるために、そんだけ考えながらやってると。
勝井:
特殊だと思いますね。
小野島:
歌のあるロック・バンドみたいに、歌を盛り立てるためにどうすればいいかって、目的がハッキリしてないだろうし、曲によって違うだろうから、なおのこと選択肢がいっぱいあるってことなんでしょうね。
勝井:
そうなんですけど、1番の太い幹は、ダンス・ミュージックをやるってことなんで、踊れれば良いっていうのは絶対あるんですよ。踊れないとダメ。この展開がかっこよくて踊れるだろうって、人それぞれ感じかたが違うじゃないですか。バンドのメンバーは、いろんなバックボーンのある一筋縄ではいかない人たちばかり。“踊る”っていう1本の幹を頼りに集まってるんですけど、感じかたや表現の仕方がみんな全然違うので、奇妙な音楽になっていくんだと思いますよ。
小野島:
ここにいらっしゃるみなさんも、ROVOのCDを何回も聴いてると思いますけど、こんだけ良い音、大きな音で聴くことってなかなかないと思う。かなりヤバいですよね。
勝井:
益子くんのスタジオでミックスをしたりマスタリングをしてる環境に近いですよね。そこのマスタリングが元なので、もちろん1番音が良くて、それより良いものって有り得ないんだけど、それに近い臨場感がありました。
小野島:
『A&ultima SP1000』をお買い求めいただければ、それに近いものが聴けると。みなさん、一家に一台ぜひ(笑)。今日はありがとうございました。

A&ultima SP1000 製品ページ

小野島 大(音楽評論家)

音楽評論家。9年間のサラリーマン生活、音楽ミニコミ編集を経てフリーに。
『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『ROCKIN' ON』『ROCKIN'ON JAPAN』『MUSICA』『REALSOUND』『週刊SPA!』『ナタリー』『CDジャーナル』などのほか、新聞雑誌、各WEB媒体などに執筆。著書に『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)『音楽配信はどこへ向かう?』(インプレス)など、編著に『フィッシュマンズ全書』(小学館)『Disc Guide Series UK New Wave』(シンコーミュージック)など多数。オーディオに関する著述も多い。

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勝井祐二(音楽家/ヴァイオリニスト)

OVO . KOMA . TWIN TAIL . DRAMATICS . 勝井祐二 × U-zhaan . FISHMANS . などのバンドやユニットと、ソロや様々な音楽家との即興演奏で、エレクトリック・ヴァイオリンの表現の可能性を追求し続ける第一人者。
「1991-1992 JAPAN - UK Festival」の中心展示「VISIONS OF JAPAN」(Victoria and Albert Museum)のサウンド・ディレクターを務め、渡英。帰国後、日本最初期のレイヴ・パーティー「WATER」をオーガナイズする。
96年、山本精一と「ROVO」結成。バンド編成のダンスミュージックで、90~00年代以降のオルタナティブ~野外フェスティバルのシーンを牽引した。
02年に初来日したファナ・モリーナ、フェルナンド・カブサッキとの共演を機にアルゼンチンの新しい音楽シーンと交流を深める。
09年には、サイケデリック・ロック・バンド「GONG」の結成40周年を記念したアルバム「2032」に、スティーブ・ヒレッジと共に参加。以後「SYSTEM 7」のアルバムにも参加するなどの交流を続け、2013年「ROVO and SYSTEM 7」名義のアルバム「Phoenix Rising LP」を世界発売。2013~2014年にかけて、アジア~ヨーロッパツアーを行い、フジロックフェスティバル'14に凱旋。 2016年 ROVO結成20周年記念アルバム「XI (eleven)」発表。

http://www.katsuiyuji.com/
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